海をかっとばせ

 光村 三年上

 海は恐いところであるというのが私の実感で、この教材を一読したとき、ワタルは海に飲まれたのかと思った。暗い話だ。「風の強い日だった」は何かを暗示する。暗示の内容は2つ。ワタルの決心と、何か悪いことが怒るかも知れないという暗示である。「耳元でかみの毛がヒュルヒュルと鳴った。」にも何かしら暗示めいたものを感じる。そしてページをめくると「海には、だれもいなかった。」である。ああ、これはまずいなぁと思った。「海には」と「だれも」の間の「、」が重い。ところがクビナガリュウの話が出てくる。???。コミックか?流木の話は主題ではなく、ワタルの気持ちを盛り上げるための素材であっただけのようだ。なら、暗い話というのは間違っている読みだということになる(一安心)。
 暗い話と思ったのは、そのすぐ後の場面である。「そのとたん、今日いちばんの大きな波が、ゴオーッとすなはまをかけ上り、ワタル目がけてせまってきた。ワタルハ、しりもちをついたまま、大あわてで後ずさりした。」・・・「口のまわりがしょっぱかった。」・・・とここまで来ると、ああ、海に飲まれたのかと思った。ページをめくると「「何してるんだ、そこで。」と不思議な少年が登場する。ああ、夢の世界か、海の世界か、死後の世界か・・・と思ったわけである。「ゴオーッ」が世界を渡る言葉である。
 「ちっちゃな子は、それには答えず、」とある。現実世界のワタルを無視する言葉、現実世界から更に、夢の世界、海の世界へ渡っていく言葉である。ワタルはちっちゃな子に答えていく。現実世界からどんどん遊離していくわけである。まぁ、この辺は、暗い話でも明るい話でもどちらでも同じように取り扱うが。

 でも、どうもそうではないようだ。3年の教材だし。
 更に読み進めていっても、場面の転換がない。練習を手伝う → からぶり → がんばれがんばれ → いろんな帽子の観客 → 白いボールは、白い鳥になって → まっかっか・・・と物語は順当に進んでいく。思う通りの展開だ。暗い話だとこの後に何かが起こる。ページをめくると「ワタルは、目をぱちぱちさせた。とたんに、スタンドが海にもどった。」これだ!・・・ところが、続きに「ぴょんぴょんとびはね、はくしゅしている。」である。あれ? 暗い話だと、違う展開だが。ページの終わりには「ぜったい来るからね。」というワタルの言葉。そしてページをめくると、話は終わっていた。あれ? 暗い話じゃなかったの?
 ということで、暗い話ではなかったようだ。


 で、気を取り直して再度読み直すことに。

 「今はまだベンチせんもんだ」
 ベンチで何をする? その1つが、声援!70 〜 71ページ、72ページに出てくる、2マス落としの言葉がそれである。自分が言っていたことが、ここで言われる。言われる方の立場になっているのである。試合に出たい、の一部分がこれである。野球の守備と攻撃、ここでは攻撃の役柄である。

 ワタルの秘密の特訓中に起こった話なんだ。波の子どもとワタルがつながった話なんだ、と。東日本大震災(WikiPedia)を体験した子どもには到底分からない話だろう。

 「さむさで耳がいたいのも」という言葉がある。季節を表す言葉だ。物語の書き出しに「夏の大会までには」という言葉がある。夏より前の話であることがここから分かる。それと、この言葉。そして、最後の「のぼりはじめた太陽」という言葉で、季節がもう少し限定できるのではないか。まぁ、指導する地方によって日の出時刻は変わるだろうから、1ヶ月内外の違いは出てくるだろうか。

 不思議なのは、ワタルの親兄弟が出てこないことだ。何故だろう。日の出前に家を出ているのだから、家人が気づかないはずはない・・・と思うのだが。単身赴任の父親、共稼ぎの夜勤疲れの母親、兄弟はなし、という家庭を想定してしまう。そんなことはないだろう、と昔の家庭像を描くのだが。親兄弟が出てこない。まぁ、ワタルの話なんだからそれでいいかも、かな?

 クビナガリュウ
 ワタルの親兄弟は出てこないが、クビナガリュウは出てくる。浜辺に打ち上げられた流木がクビナガリュウに見えたということ。お化けのようなものとしてワタルは見ている。青い服の子どもが投げてくるボールを打ち返す場面で、「クビナガリュウがこわいのもわすれていた。」とある。恐い物も忘れて、何かに取り組んだことはありますか? という教科書編集者の意図も見えてくる。浜辺に流木が打ち上げられるというが、私が育った瀬戸内海の砂浜には、めったに流木は流れてこなかった。せいぜい小枝程度だった。第二室戸台風が過ぎ去った後は、実にいろんなものが打ち上げられていたが。その後も台風が過ぎ去ると、よく浜へ行っていたものだ。ここの海は瀬戸内海のような内海ではなくて、大海原に面した浜なんだろうと思う。
 google で「クビナガリュウ」を検索するといろいろ出てくるのに、WikiPedia で「クビナガリュウ」を検索してもヒットしない。何故? と思ったら、「首長竜」でヒットする。首長竜の代表はプレシサウルスである。この恐竜の名前なら聞いたことがある。恐竜好きの子どもは知っていることだろう。3年生の中に一人やそこらいるはずである。

 海に太陽が昇っている。東が海であること。


 登場人物:ワタル

 ワタルの話。3年生?
 野球チームに入った。何故野球チームに入ったのだろう。親が体力と気力を付けたいと入れたのか、兄弟の影響で入ろうと思ったのか、友だちが入ったのを聞いて(入っているのを聞いて)友だちの影響で入ろうと思ったのか、その辺は一切書いていない。「ワタルは、今年から野球チームに入った。」とあるだけである。「今年から」という書き方が気にもなる。去年から入りたかった、入る予定にしていたということが感じられるからである。親が勧めていたがとうとう今年から入ったや、去年から念願であったがやっと入った等いろいろ考えてしまう。まぁ、すぐ後に試合に出たいとの強い願望(この作品の伏線でもあるが)を考えると、本人の考えで入ったのだろう。そうすると友だちの影響というのが一番考えやすい。

 試合に出たい。
 まあ、そうだろう。ただキャッチボールを楽しむのであれが「野球チームに入った」りしないであろう。試合に出たいから、ホームランをかっ飛ばしたいから、守備で超ファインプレーをしたいから、見せたいから入ったのだろう。今はサッカーが流行だが、数は少ないかも知れないが、まだまだ野球少年はいるだろう。

 秘密の特訓。秘密の早朝練習。
 秘密の特訓の話。ランニング、柔軟体操、素振り。白いぼうしに青い服の、ちっちゃな子。赤、青、黄、いろんな帽子の、波の子ども。

 何故秘密か。
 他の人に真似をされると試合に出れるチャンスが少なくなる、まぁ、こんなところか。チームのためにみんなと一緒に早朝練習をしようというのは、もう少し後の話だろう。

 その初日(本文では「さいしょの日」)からとてもいいことがあった。よかった。何か夢見たいな話である。
 これまでよくある話だと、最初は気合いが入って始めたけれど、少し経つと気力が萎えてくる。そんな時に事件があって、更に前以上に続けることになった、という話が多い。この話のように初日から応援団が来るというのは珍しいか。それだけに3年生の発達段階の子どもにとってはちょうど合うかな?

 「ワタルはもうむちゅうだった。さむさで耳がいたいのも、クビナガリュウがこわいのもわすれていた。」
 ということは、
 「波がいちばん高くもり上がったしゅんかんをねらって、力いっぱいバットをふった。一回、二回と数えながら、気合いをこめてバットをふった。」の部分では、まだ、耳がいたかったし、クビナガリュウが恐いのもがまんしていたということ。その時の練習とは違うこと、それが「もうむちゅうだった」の言葉に入っていること。
 「ワタルはもうむちゅうだった」の部分の読み取りには、「波がいちばん高くもり上がったしゅんかんをねらって」の部分の指導で、寒さやクビナガリュウの恐さの取り扱いが必要であること。それがなければ「もうむちゅうだった」の部分が弱くなる。
 この、「「ワタルはもうむちゅうだった」の部分を取り扱う必要があるだろうか。

 のぼり始めた太陽の腕が、ワタルの肩をぽんとたたいた。(大丈夫、やればできるじゃないか、これからもがんばれよ、とでも言いたそう。その太陽にワタルは向き合っている。)
 「まるで誰に肩をたたかれたよう?」と言いたくてしかたがないが、言わない方が良いだろう。ということで、ここの指導はしない。

 題目:海をかっとばせ
 ワタルの練習方法である。波が一番高くなった時に波に向かってバットを振る。それで「海をかっとばせ」である。ワタルのやる気がこもる言葉である。
 また、「かっとばせ」は、野球独自の応援(声援)の言葉でもある。ベンチ専門の時はワタルが言っていた。海での練習の時は、波がワタルに言ってくれた。その応援の言葉である。
 ということで、この題目はワタルの気持ちを表すと共に、波が応援してくれたことを表す言葉でもある。

 手引き:ワタルがしたこと

 区画 5区画 (途中で読み手交代。順番読み7人。)

  1. ワタルは、:(野球チームに)入った
  2. さいしょの日:とび出した
  3. 「何してるんだ」:顔を上げた
    「いくぞ」:(バットを)ふった。
  4. いつのまにか:むねをはり  (あるいは、一周する)
  5. ワタルは、目をぱちぱちさせた:ぱちぱち (させた)
    そうさけんで:もどり



 第一次指導  1時間
 第二次指導  3時間
 第三次指導  1時間
 第四次指導  2時間
  以上     7時間扱い

 第二次指導 3時間扱い。 視写する部分。
 第1時 ワタルの決心
 「毎朝、海辺までランニングして、はまべで百回すぶりをしよう。」
 さいしょの日、ワタルは、バットをつかんでうちをとび出した。風の強い朝だった。走りはじめると、耳元でかみの毛がヒュルヒュルと鳴った。

 第2時 「男の子」との出会い
 「なんだ、野球か。それなら知ってる。はまべに来た人たちがやってるからね。でも、あれ、白いボールをつかうんだよ。」
 「だから、これは練習さ。白いボールがあるつもりで、海に向かってバットをふるんだ。」
 「分かった。それなら、ぼく、練習をてつだってやるよ。」

 第3時 「男の子」との練習
 いろんなぼうしの観客が、いっせいにせいえんをおくっている。
 「かっとばせ。ワタル。」
 ワタルのバットが、ビュンとうなった。会心の手ごたえ。白いボールは、白い鳥になって、かるがると空のかなたへとんでいく。
   やったぞ。
   ホームラン。ホームラン。
   すごい。さいこう。ぎゃくてんだ。

( 取り扱う?
 第4時
 そうさけんで、ワタルは、すなはまをもどりはじめた。せなかが、ほくほくあったかかった。もういちど、ワタルは海をふりかえった。のぼりはじめた太陽のうでが、ワタルのかたをぽんとたたいた。


 第三次指導 形式の取り扱い  新出漢字と読み替えの漢字
  (1)今年
     野球
     鳴る
  (2)打ち上げる
     流木
     波打ちぎわ
     重い
     水平線
  (3)練習
     同時
     真っ白
     投げる
     球
  (4)観客
  (5)君たち

 第四次指導 「ワタル」と自分をくらべて、みているところやちがうところを見つけましょう。
  準備物:ワークシート。

 第一次指導 全文の概観

一、よむ ○昨日、お家で読んでみた人。
・順番読み。7人。
12分
二、とく ○題目:海をかっとばせ
 登場人物:ワタル
◎ひびき
 何になりたかった:選手
 そのために:秘密の特訓
 練習方法は:早朝、海岸で、(ランニング、柔軟体操)、素振り
 その初日からとてもいいことがあったのね。
 海をかっとばせたか:
 できたのは:手伝ってくれた。
○手引き
 ワタルがしたことを見つけて書いてください。
三、よむ ・黙読 15分
四、かく
五、よむ ・指黙読1回。指斉読2回。
六、とく ○事実・区分
 秘密の特訓を始めたんだけれども、
 やるぞ、と気合いが入っているのは?
 ワタルが、やったぁ、と思っているのは?
 おや?と思ったのは?
◎山
 青い服を着て白い帽子のちっちゃな子、まるで。
○余韻
 秘密の特訓、楽しかったのね。
七、よむ ・指斉読1回。

 第二次指導 第1時 ワタルの決心

一、よむ ○昨日、お家で読んでみた人。
・順番読み。7人。
12分
二、とく ○おさらい
 ワタルは秘密の特訓で誰と出会った?
  青い服のちっちゃな子ども
◎承接
 それで特訓を続けることができた。
○手引き
 ワタルの秘密の特訓、決心が書いてあるところ。
三、よむ ・黙読 15分
四、かく 「毎朝、海辺まで
 ランニングして、
 はまべで百回
 すぶりをしよう。」
 さいしょの日、
ワタルは、バットを
つかんでうちを
とび出した。
風の強い朝だった。
走りはじめると、
耳元でかみの毛が
ヒュルヒュルと鳴った。     (97字)
五、よむ ・指黙読1回。指斉読2回。
六、とく ○語義・区分
 海辺、はまべ、耳元
 すぶり
 2区分、ワタルの秘密の特訓・決心と、したこと。
◎心
 したことの方にもワタルの決心が堅いことがわかる言葉がある。
   つかんで
   とび出した
   風の強い
   ヒュルヒュルと鳴った。
○余韻
 最初の日から良いことがあったのね。
 良いことも最初から良い思いをしたわけではない。
七、よむ ・指斉読1回。

 第二次指導 第2時 「男の子」との出会い

一、よむ ○昨日、お家で読んでみた人。
・順番読み。7人。
12分
二、とく ○おさらい
 強い決心で、早朝練習に出かけたけれど、じゃまをするものがあった。何?
  強い風
  クビナガリュウ
◎承接
 それにも負けずに素振りを始めたけれど、何回まではできた?
   66回。
○手引き
 そこで体力も気力も尽きかけたわけだけれども、男の子が現れた。
 その最初の会話。全部書きたいけど。後半だけ。
三、よむ ・黙読 15分
四、かく 「なんだ、野球か。
 それなら知ってる。
 はまべに来た人たち
 がやってるからね。
 でも、あれ、白い
 ボールをつかうんだよ。」
「だから、これは練習さ。
 白いボールがある
 つもりで、海に向かって
 バットをふるんだ。」
「分かった。それなら、
 ぼく、練習を
 てつだってやるよ。」    (100字)
五、よむ ・指黙読1回。指斉読2回。
六、とく ○語義・区分
 「難しい言葉はありますか?」
 3区分:「 の上に、ワタルの言葉は「ワ」と男の子の言葉は「男」だけを書く。
◎心
 ワタルがカチンときた言葉は?
   なんだ、野球か
   つかうんだよ・・・の「よ」
 意外に思った言葉は?
   てつだってやるよ・・・の「よ」
○余韻
 カチンと来たからこそ、後34回不ぶりができたのかな?
七、よむ ・指斉読1回。

 第二次指導 第3時 「男の子」との練習

一、よむ ○昨日、お家で読んでみた人。
・順番読み。7人。
12分
二、とく ○おさらい
 ワタルは男の子の言葉にカチンと来たからこそ、素振りの練習を続けられたのかな?
◎承接
 男の子と練習していると、他にも?
 ますます元気になってきたよ。
○手引き
 一番うれしかったところは?
 観客の「観」の字の書き方、筆順。黒板の右の方で指導。「観」は4年生の漢字。「かん」と平仮名で書いても良い。
三、よむ ・黙読 15分
四、かく  いろんなぼうしの
観客が、いっせいに
せいえんをおくって
いる。
「かっとばせ。ワタル。」
 ワタルのバットが、
ビュンとうなった。
会心の手ごたえ。
白いボールは、
白い鳥になって、
かるがると空の
かなたへとんでいく。   (ここまでで100字)
  やったぞ。
  ホームラン。
   ホームラン。
  すごい。さいこう。
   ぎゃくてんだ。    (130字)
五、よむ ・指黙読1回。指斉読2回。
六、とく ○語義・区分
 会心:
 4区分
 ワタルのことが書いてあるのは?
 白いボールのことは?
 観客のことは? 観客の言葉?
◎心
 ワタルが一番うれしかったのは?
  会心の手応え
 「やったぞ〜」の言葉はワタルの言葉でもあるね。ワタルと観客の一体感。
○余韻
 夢みたいな話だね。
七、よむ ・指斉読1回。

 「ぎゃくてんだ」まで書かせると視写の量が120字を超えてしまう。視写の力がある子ども達ならここまで書かせたいが、今年が初めての子どもであれば「かなたへとんでいく」まで書かせて、後は先生が追加で書く。子ども達には、書ければ書いてもいいよ、ぐらいで。


 第三次指導 新出漢字と読み替えの漢字

一、よむ ○昨日、お家で読んでみた人。
・順番読み。7人。
12分
二、とく ○おさらい
◎承接
○手引き
 子どもはノートに
  1つの言葉につき1行使って
  平仮名で
書かせる。
三、よむ ・黙読 15分
四、かく (1)今年
   野球
   鳴る
(2)打ち上げる
   流木
   波打ちぎわ
   重い
   水平線
(3)練習
   同時
   真っ白
   投げる
   球
(4)観客
(5)君たち
五、よむ ・指黙読1回。指斉読2回。
六、とく ○語義・区分
◎心
○余韻
七、よむ ・指斉読1回。
 宿題:家で、漢字で3回書いて、3回で覚えること。

 「四、かく」を子どもは自分のノートに

書かせる。それを家に帰って

をします。宿題です。
 そして、明日、学校へ来たら、

提出する。



 第四次指導 2時間扱い

  1. 「ワタル」と自分を比べて、見ているところや違うところを見つけましょう。(78ページ)
    ワークシートの準備
     子どもに書かせて発表させる。
    「人物に着目して読む」を範読。「登場人物のことを考えながら、自分について考えることにもなるのです。」芦田先生の自己を読む、ですね。
  2. 書くと言葉(79ページ)